Devil's Night
 
 私はフラフラと立ち上がった。一刻も早くここを出たい。1秒でも早く、カイのそばを離れたい。


「私……ひとりで……帰れるから……」


 彼に対する恐怖を悟られまいと必死で笑おうとしたが、体が震え、無理に作った笑顔が崩れるのを感じた。
 カイは何も言わない。ただ、怯える私を見ている。

 
 私は何度も砕けそうになる膝に力を入れ、立ち上がった。


「美月」


 崩れたレンガの間から外に出ようとしたとき、カイが呼び止めた。


「やっぱり僕が怖い?」


 悲しみをたたえた瞳。


 私が何も答えられないでいると、カイは寂しそうに笑った。


「これ、もらっていい?」


 そう尋ねる彼は、ワインレッドの布を手にしている。それは、ナイフで切り裂かれた私のスカーフだった。


――あれは外に落ちてたはず。


 彼はいつから、襲われる私を見ていたのだろうか。


 すぐに助けに入ることもせず、警察を呼ぶこともなく、冷静にふたりの男を殺したカイが、制服のスカーフに顔をよせ、それにキスした。その陶酔するような表情を、私はゾッとしながら見ていた。


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