調香師の彼と眼鏡店の私 悩める仕事と近づくあなた
紗奈は店長と高橋のやり取りを流し聞きしながら、自分の仕事に集中することにした。
メールボックスを開くと、【重要】と書かれたメールが目に飛び込んでくる。
「あっ、小笠原様のフレームもトラブルで遅延になってる! 他は!? ……私の担当分は小笠原様だけね。すぐに連絡しなきゃ」
メールを確認して少しだけますます心が重くなる。急いでお客様データを開き、小笠原の連絡先を確認した。
一呼吸して電話をかける。
「もしもし」
心地良い声が聞こえてきた。紗奈は受話器を握る手に力を込める。今からこの声色が変わってしまうかもしれない。
紗奈は声が震えないように細心の注意を払った。
「小笠原様でしょうか。こちら硝華堂でございます。フレームのご用意なんですけれども、お時間がかかってしまい、再来週以降のご用意となりそうです。誠に申し訳ありません。再来週の月曜日以降でご都合の良い日はありますでしょうか?」
クレームをいただく覚悟で謝罪したのに、小笠原の声は穏やかだった。
「そうなんですか。全然構いませんよ。えーっと水曜日に取りに行けそうです。午前中の十一時とか」
小笠原の声だけに耳を傾けると、店内のギスギスとした雰囲気が遠くに霞んでいく。
「ありがとうございます! 再来週水曜日の十一時で承ります。当日はフィッティングをいたしますので、三十分ほどお時間をいただく場合がございます。ご了承ください。この度は誠に申し訳ありませんでした」
「いえいえ。楽しみにしていますね」
電話を切った紗奈は、安堵の気持ちから自然と口角が上がっていた。
(ご迷惑をおかけしたのに嬉しいって言ってくださった。楽しみにしています、だって。なんてありがたいお客様なの!)
お客様の声が、今の紗奈にとっては一番のモチベーションだった。たった一言、彼らから言葉を向けられるだけで、紗奈は頑張れた。
彼らの温かさに見合う仕事がしたい。
「よし、頑張らなきゃ。まずは笑顔よ。少しでも店内の雰囲気を良くしていこう」
小さく呟くと、紗奈はにっこりと微笑んだ。
「高橋さん、今時間空いてますからトラブル対応のお客様データの整理、手伝いますよ!」
眉間にシワを寄せた高橋に近づくと、紗奈は明るく声をかけた。
(小さいことからコツコツと、よ!)
メールボックスを開くと、【重要】と書かれたメールが目に飛び込んでくる。
「あっ、小笠原様のフレームもトラブルで遅延になってる! 他は!? ……私の担当分は小笠原様だけね。すぐに連絡しなきゃ」
メールを確認して少しだけますます心が重くなる。急いでお客様データを開き、小笠原の連絡先を確認した。
一呼吸して電話をかける。
「もしもし」
心地良い声が聞こえてきた。紗奈は受話器を握る手に力を込める。今からこの声色が変わってしまうかもしれない。
紗奈は声が震えないように細心の注意を払った。
「小笠原様でしょうか。こちら硝華堂でございます。フレームのご用意なんですけれども、お時間がかかってしまい、再来週以降のご用意となりそうです。誠に申し訳ありません。再来週の月曜日以降でご都合の良い日はありますでしょうか?」
クレームをいただく覚悟で謝罪したのに、小笠原の声は穏やかだった。
「そうなんですか。全然構いませんよ。えーっと水曜日に取りに行けそうです。午前中の十一時とか」
小笠原の声だけに耳を傾けると、店内のギスギスとした雰囲気が遠くに霞んでいく。
「ありがとうございます! 再来週水曜日の十一時で承ります。当日はフィッティングをいたしますので、三十分ほどお時間をいただく場合がございます。ご了承ください。この度は誠に申し訳ありませんでした」
「いえいえ。楽しみにしていますね」
電話を切った紗奈は、安堵の気持ちから自然と口角が上がっていた。
(ご迷惑をおかけしたのに嬉しいって言ってくださった。楽しみにしています、だって。なんてありがたいお客様なの!)
お客様の声が、今の紗奈にとっては一番のモチベーションだった。たった一言、彼らから言葉を向けられるだけで、紗奈は頑張れた。
彼らの温かさに見合う仕事がしたい。
「よし、頑張らなきゃ。まずは笑顔よ。少しでも店内の雰囲気を良くしていこう」
小さく呟くと、紗奈はにっこりと微笑んだ。
「高橋さん、今時間空いてますからトラブル対応のお客様データの整理、手伝いますよ!」
眉間にシワを寄せた高橋に近づくと、紗奈は明るく声をかけた。
(小さいことからコツコツと、よ!)