調香師の彼と眼鏡店の私 悩める仕事と近づくあなた
「香りは五感の中でもっとも感情と結び付きやすいと言われています。少しでも亀井さんが前向きな気持ちになれるよう、お手伝いさせてください」
「あっ……はい」
店員らしい小笠原の言葉に、紗奈はコクリと頷いた。頭の上の名残惜しさは気のせいだろう。
小笠原はいくつかのフレグランスボトルを紗奈の前に押し出した。
「まずトップノートには前向きな気持ちになれるベルガモットやレモン。ミドルノートにはジャスミンとサンダルウッドはどうでしょう。優雅な香りが決断を後押しします。ラストノートにはホワイトムスクとグリーンティー。清涼感のある余韻が楽しめます。亀井さんが明るい気持ちで決断出来ますように……。どうぞ、お確かめください」
三つの香りを差し出され、順番に香りを確かめる。
心地よい香りが紗奈の鼻をくすぐった。先程までのモヤモヤや恥ずかしさが薄らいでいくようだ。
(不思議……。こんなに落ち着くなんて)
「どれもいい香りですね。ちょっと気分が上がる気がします。こんな素敵な体験をさせていただいて、ありがとうございます」
紗奈が頭を下げると、小笠原は嬉しそうに口角をあげた。そして小さな瓶を手渡してきた。
「どうぞ。試作用の小さいものですが、受け取ってください。貴女専用の香りです」
小指サイズほどの小さな瓶は、宝石のようにキラキラと輝いている。
驚いた紗奈は目を見開いた。
「もらえません! い、いくらですか? 払います」
「僕が勝手に作ったものですから、お金はいただけません。本来はもっとヒアリングして作るんですよ」
「でも……」
(怪我の手当てまでしてもらって、勝手に泣いて、香水まで作ってもらうなんてっ、あり得ない!)
けれど中々受け取らない紗奈に、小笠原は心なしかシュンとしている。
受け取らない方が悪いことをしているみたいだ。紗奈の罪悪感がチクチクと痛む。
「じゃあ、正規の商品としてこの香りを売ってください。すごく良い香りだし、本当に前向きになれるのでもっと欲しいです」
紗奈が手をパンと叩いて提案すると、小笠原はきょとんとした表情になる。そしてすぐに眉を八の字に下げた。
「よろしいのですか? 製品用の作成には少しお時間をいただく形になるのですが」
「時間はあるので大丈夫です! 作っていただけますか?」
その言葉に小笠原の表情がキラキラと輝いた。胸元にスッと手を当て、頭を下げられる。
「ではお作りしてきますね。こちらで少々お待ちください」
どうやら製品の本格的な瓶詰めは別室で行っているようだ。
紗奈は待っている間に試作用の瓶から香水をつけてみた。爽やかな柑橘系の香りが広がる。
「つけるとまた少し違うわね。前向きな気持ちになれるんだっけ。……ふふっ、良い香り」
深呼吸をする度に、本当に気分が明るくなっていく。
(小笠原さん……本当に不思議な人。お客様が商品説明を聞かずに困っているって言っていたけど、もったいない話よね。あんなに素敵な説明をしてくれるのに)
紗奈は存分に自分の香りを楽しんだ。
ミドルノートが香り始めた頃、小笠原が戻ってきた。
「お待たせしました。あっ、つけてくださったんですね」
「はい。本当に前向きになれちゃいました」
「そう言っていただけると嬉しいです」
紗奈が笑顔を向けると、小笠原も嬉しそうに微笑んだ。
「あっ……はい」
店員らしい小笠原の言葉に、紗奈はコクリと頷いた。頭の上の名残惜しさは気のせいだろう。
小笠原はいくつかのフレグランスボトルを紗奈の前に押し出した。
「まずトップノートには前向きな気持ちになれるベルガモットやレモン。ミドルノートにはジャスミンとサンダルウッドはどうでしょう。優雅な香りが決断を後押しします。ラストノートにはホワイトムスクとグリーンティー。清涼感のある余韻が楽しめます。亀井さんが明るい気持ちで決断出来ますように……。どうぞ、お確かめください」
三つの香りを差し出され、順番に香りを確かめる。
心地よい香りが紗奈の鼻をくすぐった。先程までのモヤモヤや恥ずかしさが薄らいでいくようだ。
(不思議……。こんなに落ち着くなんて)
「どれもいい香りですね。ちょっと気分が上がる気がします。こんな素敵な体験をさせていただいて、ありがとうございます」
紗奈が頭を下げると、小笠原は嬉しそうに口角をあげた。そして小さな瓶を手渡してきた。
「どうぞ。試作用の小さいものですが、受け取ってください。貴女専用の香りです」
小指サイズほどの小さな瓶は、宝石のようにキラキラと輝いている。
驚いた紗奈は目を見開いた。
「もらえません! い、いくらですか? 払います」
「僕が勝手に作ったものですから、お金はいただけません。本来はもっとヒアリングして作るんですよ」
「でも……」
(怪我の手当てまでしてもらって、勝手に泣いて、香水まで作ってもらうなんてっ、あり得ない!)
けれど中々受け取らない紗奈に、小笠原は心なしかシュンとしている。
受け取らない方が悪いことをしているみたいだ。紗奈の罪悪感がチクチクと痛む。
「じゃあ、正規の商品としてこの香りを売ってください。すごく良い香りだし、本当に前向きになれるのでもっと欲しいです」
紗奈が手をパンと叩いて提案すると、小笠原はきょとんとした表情になる。そしてすぐに眉を八の字に下げた。
「よろしいのですか? 製品用の作成には少しお時間をいただく形になるのですが」
「時間はあるので大丈夫です! 作っていただけますか?」
その言葉に小笠原の表情がキラキラと輝いた。胸元にスッと手を当て、頭を下げられる。
「ではお作りしてきますね。こちらで少々お待ちください」
どうやら製品の本格的な瓶詰めは別室で行っているようだ。
紗奈は待っている間に試作用の瓶から香水をつけてみた。爽やかな柑橘系の香りが広がる。
「つけるとまた少し違うわね。前向きな気持ちになれるんだっけ。……ふふっ、良い香り」
深呼吸をする度に、本当に気分が明るくなっていく。
(小笠原さん……本当に不思議な人。お客様が商品説明を聞かずに困っているって言っていたけど、もったいない話よね。あんなに素敵な説明をしてくれるのに)
紗奈は存分に自分の香りを楽しんだ。
ミドルノートが香り始めた頃、小笠原が戻ってきた。
「お待たせしました。あっ、つけてくださったんですね」
「はい。本当に前向きになれちゃいました」
「そう言っていただけると嬉しいです」
紗奈が笑顔を向けると、小笠原も嬉しそうに微笑んだ。