調香師の彼と眼鏡店の私 悩める仕事と近づくあなた
 店の中に入ると柔らかな香りが鼻をくすぐる。白茶やローズマリーだろうか。紗奈は店内を見回した。
 木目調の店内は暖色系の柔らかな光に照らされている。温かみのある店内には棚がズラリと並んでおり、フレグランスボトルが置かれている。窓際にはディスプレイ用のガラス瓶がいくつも置かれており、西日を受けてガラス瓶がキラキラと輝きを放っていた。

(綺麗! お店の外から見えていたのは、これだったのね)

 ちょっとした非日常感が紗奈の心を浮つかせる。カラフルなガラス瓶たちは、思わず足を止めてしまうほど美しかった。

「痛みますか? 奥の部屋まで歩けますか?」

 心配そうにこちらを見つめる小笠原の姿を見て、紗奈は一瞬でも膝の痛みを忘れていたのが申し訳ない気持ちになる。

「大丈夫です! すみません、そこのガラス瓶が美しくて見とれてしまって」

 正直に告白すると、小笠原はようやく表情を和らげた。

「嬉しいな。ありがとうございます」


 案内されるがままに店内の奥へと進んでいく。
 シンプルな内装の小さな部屋に通されると椅子に座るように促され、そっと腰を下ろした。
 目の前のテーブルにはノートPCといくつかのガラス瓶が置かれている。ここは事務室なのだろう。店内のBGMと空気清浄機の控えめな音だけが聞こえていた。

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