先生は悪いオオカミ様
始業式が終わり、少し重たい空気の教室からベランダへ出た。

春の柔らかな風が頬を撫で、遠くで鳥の声が聞こえる。

「ほら、おまえら、始業式終わったんだから帰れよ。」

教室の方から斉藤先生の低い声がした。

振り返ると、見慣れない女子生徒が数人――どうやら三年生らしい。

「きゃあ、蓮先生。」

「蓮先生、担任になったの?」

「ああ。」

「また会いに来てもいい?」

明らかに彼に好意を持っている口ぶりに、胸の奥がざわつく。

「おまえら三年生なんだから、会いに来る前に勉強しろよ。」

「ええ? ケチ!」

そのぶっきらぼうなやり取りが可笑しくて、思わずクスクスと笑ってしまった。

――と、次の瞬間。

ベランダの手すりに置かれた私の手のすぐ隣に、先生の大きな手が触れた。

指先が風に揺れる髪をかすめ、心臓が跳ね上がる音が自分でも聞こえそうだった。
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