落ちこぼれ見習い聖女は、なぜかクールな騎士様に溺愛されています?〜これ以上、甘やかされても困ります〜
むせ返るような血の匂いに、この光景って……。
八年前のマール村が魔物に襲われた時を思い出され、足がすくんで動けなくなった。
「アイリス、貴方はこの方達の止血をして!」
その場で立ち尽くしていると、私に気づいた大聖女様に声をかけられ、はっと我に返る。
「は、はいっ」
リネン室から清潔なシーツを持ってきて引き裂き、包帯の代わりに怪我人に巻いていく。飲める人には聖水も飲ませ、泉水が無くなりそうになれば、泉に汲みに何往復もした。
例え魔法が使えなくても、自分の出来ることをしなくちゃいけない。私は額から吹き出る汗を手の甲で拭う。
治療に当たる聖女達にも疲れの色が見え始めた、そんな時だった。
「お、お兄様っ、いや、しっかりしてっっ」
悲痛な叫び声に私は振り返った。
まさか……。
たった今担架で運び込まれた男性に、エリゼが泣きながら回復魔法をかけている。
心臓が嫌な音を立てる。
私は震える足でふらりとそちらに近づいていく。
お願い、間違いであってほしい。
怖い、本当は見たくない、でも、確認せずにはいられなかった。
顔面は蒼白で瞳は閉じられたままの黒髪の男性は、まるで人形のようにぴくりとも動かない。胸元には生々しい傷跡が広がっている。
「お兄様っ、お兄様ぁっ……、うっ」
「も、申し訳ございません。副団長は新人の従騎士を庇い、魔物の犠牲にっ」
ライオネル様を運んで来た騎士様がエリゼに頭を下げた。