落ちこぼれ見習い聖女は、なぜかクールな騎士様に溺愛されています?〜これ以上、甘やかされても困ります〜
 私は心配でドアノブを握ったまま動けないでいた。
 少しの間ぐるぐると考えを巡らせていたが、大聖女様が治療なさったのだから大丈夫よね……と、段々心が落ち着いてきた。
 騎士様が訪れるのは珍しいことではない。魔物討伐での負傷から、訓練中の怪我や日々の疲労で訪れる人もいる。ライオネル様も前々から神殿に通っていたようだった。

 副団長様だし、きっとお忙しくて疲れているんだわ……。って、どうしよう。私がライオネル様の仕事を増やしてしまって、もっと疲れさせているんじゃない?
 せめて護衛を頼んだ時、お礼に聖魔法でもかけてあげられれば、私でも少しは役に立つだろうか。

「うん、そうよね。そうしよう」

 ムクムクとやる気がみなぎってきた。もっと魔法の訓練頑張ろう! 



「あらアイリス、ちょうど良かったですわぁ」

 仕事が終わった後、魔法の自主練習の為に〈魔法訓練の()〉に向かう途中で声をかけられた。その声にぞわっと鳥肌が立つ。

 うわ、シャーロット様だわ。

「あなた、私の部屋を掃除しなさい」

「へ? 掃除?」

「そうですわ。掃除するはずの使用人がサボりましたのよ。だからあなたが代わりにやりなさいよ」

「は?」

 使用人がサボったって、ナタリーを追い払ったのは自分じゃないの! 私に掃除しろって、自室の掃除は私の仕事じゃないわ。

 何も言えず突っ立ってると、シャーロット様は私を睨みつける。

「とにかく、やりなさいね!」

 そう言ってスカートを翻して去っていった。

「はぁ。これから訓練しようと思ったのに……」

 大きく溜息をつくと、私は仕方なくシャーロット様の部屋の掃除に向かうのだった。
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