憧れの専務は私の恋人⁉︎

7.仕事に行きたくない

 早朝に電話がかかってきて、急遽社長の代理として商談へ出ることになった専務は、慌ただしく着替えてパソコンに向かっている。

(忙しいんだな……)

 休んで欲しいと思うけど、そう簡単に休んでくれとも言えない。手伝いたいけれど、何をしていいのかわからず、私は専務の「待ってて」と言う言葉を鵜呑みにして、静かにソファーで待っていた。

「あー、もう!なんで仕事なんだよ!今日は休みだったのに!」

 専務が仕事の愚痴を言うとは思わなかった。

「専務も仕事が嫌だと思うんですね。」
「こんなに嫌だと思ったのは初めてだよ。今日はずっと詩織と一緒に家で過ごす予定だったのに!」

 仕事自体が嫌なわけではなくて、休みが無くなってしまったことが嫌なようだ。なんだか顔が熱い気がする。専務がぶつぶつ文句を言いながら勢いよくパソコンに打ち込んでいると、スマホが鳴った。

「え、もう?……星矢さん、おはようございます!……はい、そうです。え、ちょっと待って下さい!あと10分!あと10分ください!えっと、あー……まだ資料の準備ができてないんですよ……はい、急ぎます!お願いしますっ!」

 専務は電話を切ると、ため息をつきながらこちらへ歩いてきて、私の隣にぽすんと腰を下ろした。

「仕事が早すぎるんだよ、星矢さんは……」
「星矢さんってもしかして……」

「中川星矢さん。知ってる?」
「も、もちろんです!」

 中川さんの名前を初めて知った。あの2次元のような見た目にぴったりな御名前だ。今度奈々美に教えてあげよう。

「中川さんがいらっしゃるなら、早く行かないといけませんね。資料はできたのですか?」
「えー、詩織も俺を急かすの?」

「中川さん怖そうだから……」

 怒ったら炎の術とか使って攻撃してきそうな雰囲気がある。

「そりゃ怖いよ。だけど、10分もらったからまだ大丈夫。キスする時間くらいあるよ。」
「!?」

 ぐいっと体を引き寄せられて、私は慌てて専務の体を押した。

「皺になっては困りますので。」
「脱いだ方がいいってこと?」

「違いますっ!」

 このままだと流されてしまいそうだ。私は立ち上がって専務に手を差し出した。

「行きますよ、専務?」
「まだ仕事してないから名前で呼んで。」

「お着替えされておられるのですから、お仕事と同じです。」
「やっぱり脱ぐ。」

 専務は本当にジャケットを脱ぎはじめた。

「なにしてるんですか!早く行きますよ!」

 私は無理やり専務を部屋から連れ出した。
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