憧れの専務は私の恋人⁉︎
「あー、行きたくないなぁ……そうだ、詩織も一緒に行こうよ!」
「今日はお見合いではありませんよね?」
「うーん、紹介されるかもしれないから……」

「社長の代わりに商談へ出ると仰ってました。お1人で頑張ってください。」
「詩織がいないと頑張れないよ……」

 専務は私の手を握ったまま、うるうるした瞳をこちらへ向けてくる。そんな子犬のような目で見ないで欲しい。私は小さくため息をついた。

「わかりました。では、終わるまでお待ちしています。」
「ほんと?すぐ終わらせるね!昨日の喫茶店で待ってて!またパフェ食べよう!」

 専務は水を得た魚のように明るくなった。駐車場に入るとすぐに車が入ってくる音が聞こえてきた。専務と一緒にいるところを中川さんに見られたらまずい気がする。後退りをすると、専務は私を引き寄せた。

「離れちゃだめ。」
「……っ!?」

 車が停車してドアの開く音がする。コツコツと刺々しい靴音が聞こえてきて、専務はようやく私を放した。

「おはようございます、専務。」
「星矢さん、彼女は早川詩織さん。俺の恋人です。」

 中川さんは品定めするように、私の頭からつま先まで何度も視線を往復させている。

「専務、私はこれで失礼しますね!」

 中川さんの鋭い視線に耐えきれなくなって、離れようとすると、専務に手を掴まれた。

「行っちゃだめ。星矢さん、彼女も一緒に送ってくれる?」
「……どうぞ。」

 中川さんの声は、ものすごく低かった。
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