憧れの専務は私の恋人⁉︎

10.尋問のようなお見合い※

 父は朝から口数が少ない。こんなに緊張した父を見るのは初めてだ。

「智也、粗相のないようにな。」
「わかっています。」

(早く終わらせよう。一刻も早く!)

 そして詩織とデートに行こう。俺は上着のポケットにそっと触れた。

「東雲様、お待ちしておりました。」

 早川家のお屋敷の前には、着物姿の使用人が立っていた。案内されて門をくぐると、鬱蒼とした森が俺たちを出迎えた。

「大丈夫ですか、父さん。」
「あぁ……」

 緊張が度を超えて体調が悪そうな父を気遣いながら森を抜けると、国立公園のような広大な日本庭園が広がっていた。

「素晴らしい庭園ですね。」
「そうだな。」

 小川に流れる水の音と小鳥のさえずりが日常を忘れさせてくれる。

(こういう場所へデートに行くのもいいな。)

 詩織とのデートは、仕事の合間に食事をするような慌ただしいものばかり。たまにはゆっくり庭園を散歩しながらずっと詩織を眺めるのも良い。

(和装にしようかな。)

 着物を着た詩織はさぞ美しいことだろう。そんなことを考えていたら、頭がぼーっとしてしまった。

「おい、智也。聞こえてるのか?」
「えっ?……あぁ、あまりに庭園が素敵なものですから見入ってしまいました。ははは。」

「気を引き締めてくれ。」
「すみません。」

 この時の俺は、父がどうしてこんなに緊張しているのかよくわかっていなかった。
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