憧れの専務は私の恋人⁉︎
「よりによって、どうして土曜日なんだ……」

 執務室へ戻った俺は、ソファーに腰掛けて天井を見上げた。土曜日は詩織とデートする予定だった。久しぶりだったから楽しみにしていたのに、見合いで潰れるとは思わなかった。同じ早川なら詩織にして欲しい。そう強く思うけれど、早川財閥の申し出を断ることは不可能だ。俺は詩織に電話をかけた。

「詩織?今週の土曜日さ……仕事になった。ごめん、デートはまた今度にしよう。」

『見合いに行く』とは言えない。いつも見合いを断るため商談に同席させているのに、どうして今回は違うのかと思うだろう。嘘をつくのは仕方がないことだが、心の中に罪悪感が広がっていく。

(どうして嘘をついてまで、見合いに行かなければならないんだ……!)

 詩織は俺の世界を変えてくれた。姿を見るだけで幸せな気持ちになり、声を聞くだけでやる気が出る。詩織から送られた言葉は魔法のようだ。スマホのアルバムを開くと、いろんな表情の詩織が映っている。

「詩織……」

 詩織と会ったのは偶然だった。展示会でオロオロしている社員を見つけて声をかけた相手が詩織だった。真面目で一生懸命な姿勢は好感が持てた。だから一時的に偽りの婚約者になってもらった。

 見合いを断る口実が欲しかっただけだった。少し高めのレストランで食事をして後腐れなく関係を終わらせるはずだったのに、なぜか俺は彼女を行きつけの居酒屋へ連れて行った。

 今思えば「好きな人と結婚したい」と彼女の前で口走ってしまったこともおかしかった。知らぬ間に気を許していたのかもしれない。

「あの時から運命は決まっていたということだな……」

 居酒屋での会話はとても居心地が良かった。居酒屋なんてと揶揄することなく、美味しそうに料理を食べて、お酒を一緒に飲んでくれる。だから気分が良くなってしまった。

 寝落ちしたのは失態中の失態だったけど、詩織に言ったことは本心だった。綺麗だというのも、早川さんみたいな人がいいというのも。酔っていたからオブラートに包めなかっただけだ。

「可愛いな……」

 写真を撮ると詩織は嫌がるけれど、それもまた可愛い。

 翌朝ホテルで目覚めたとき、俺は決心した。彼女に交際相手がいないことを願いつつ、いたとしても何とかしようと思っていた。だから父から見合いの話が来たことを利用して約束を取り付けた。

 俺に気があることはわかっていたから、特定の相手がいないのであれば絶対にうまくいく自信があった。なのに断られた。詩織はあの時の俺をどう見ていたのかわからないけれど、心底動揺していた。だけど、動揺した甲斐あって「恋人のふりをして欲しい」なんていう言葉が勝手に出てきた。

 恋人のふりは結果的にうまくいった。今では詩織も俺のことを思ってくれている。

「大好きだ……」

 写真の詩織を眺めていると、スマホにメッセージが届いた。星矢さんからのメッセージには、早川麗華の新規事業に関する書類が添付されている。

「仕事が早いなぁ、星矢さんは。」

 早川麗華との見合いはいわば商談だ。見合いは面倒だが商談なら得意だ。早く終わらせることができれば、詩織とデートする時間も作れるはず。俺はパソコンを開いて、星矢さんから送られてきた書類を開いた。
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