憧れの専務は私の恋人⁉︎
「こちらでお待ちください。」

 案内されたのは、美術品のような掛け軸のある厳かな雰囲気の和室だった。

「父さん、あの掛け軸は誰のでしたっけ。」
「吉野雲岳の『黒龍翔界』だ。この部屋全体があの掛け軸を中心とした作品になっている。」

「ぅわ……」

 思わずため息が溢れた。よく見ると、掛け軸から飛び出した黒龍の尾が襖にまで伸びている。まるで名画の中にいるようだ。

「ご自宅へお招きいただく時は必ずこの部屋だ。覚えておけ。」
「……わかりました。」

「慎重に答えろよ?失礼のないようにな。何を見ておられるのかわからない。」
「……はい。」

 これは見合いという名の商談。早川麗華と対峙するのは初めてだが、俺には詩織がついている。ぐっと手を握りしめると、廊下から衣擦れの音が聞こえてきた。
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