憧れの専務は私の恋人⁉︎
「詩織、俺と結婚してください。」
「よろしくお願いします。」

 専務は私の薬指に指輪をはめた。キラキラ輝く指輪を見ていると、じんわりと視界が滲んだ。

「ありがとうございます、智也さん。」

 見慣れた家の庭園だけど、専務と一緒にいると景色が違う。聞こえてくる音も、いつもより穏やかだ。

「詩織は、俺と見合いだって知ってたの?」
「いえ、今日知りました。」

「そうだったんだ。ごめんね、仕事だって嘘ついて。相手が詩織で良かったけど、正直に話すべきだった。」
「それは私も同じです。専務から電話をもらった時、姉から連絡が来た後だったんです。お見合いをすると言われていたのですが……言えませんでした。ごめんなさい。」

「お姉さんに婚約を認めてもらったから、婚約したことを公表すると思う。そうすれば、俺のところに見合いの話は来なくなる。だけど、お姉さんは俺よりも良い人がいたら詩織に紹介すると思うから……」
「そんなことないと思いますけど。」

「だから指輪、外さないでね。次に見合いを勧められたら絶対に相談して。」
「ふふ。わかりました。」

 いつの間にか専務の手にも指輪が光っている。

「いつの間に用意したのですか?サイズもぴったりだし……」
「俺はずーっとそのつもりだったから。」
 
 専務は、私の手をぎゅっと握りしめた。

「詩織が早川家の令嬢だって知ってたら、婚約者のふりは頼まなかったかもしれないな。告白することもなかったかもしれない。」

(そうだよね……)

 今の会社を選んだのは自分の意思。出資しているなんて知らなかった。忖度してもらいたいなんて思ったことはないけれど、素性を知られたら、面倒な社員になっていたと思う。

「知られていなくて良かったです。」

 姉はそんな私の心情を見越して、素性を隠しておいてくれたのだろう。

「いや、そんなことないかもな。知ってても告白したかも。詩織といると楽しいし、幸せだし。」

 専務は意地悪な顔をして笑っている。揶揄われているとわかっても、嬉しいと思ってしまう。

「私も智也さんといると幸せです。」
「ふふふ……可愛い……」
「っ……!」

 一瞬だけ唇が重なった。

「急にしないでください!こんなところで!」
「詩織が可愛い過ぎるのがいけないんだよ。」

 誰かに見られたら、二度と家に帰って来られない。離れようとすると、専務は私の手を引いた。

「逃げちゃだめだって……ね?もう1回しよ?」

 顔を上げると、再び唇が重なった。
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