憧れの専務は私の恋人⁉︎

2.専務とお食事

「もういいよ。」

 商談相手を見送るために頭を下げていると、専務のささやき声が聞こえた。

「ありがとう、早川さん。助かったよ。」
「いえ……」

 ずっと笑顔を作っていたから、頬が固まっている気がする。

「あの人は父と仲が良くてね。断りづらくて有耶無耶にしてたら、見合いの日取りを決めるなんて言われてしまって……急に婚約者だなんて言ってごめんね。」

 専務は社長の息子。見た目も良くて次期社長なのだから、お見合いに引っ張りだこのはずだ。でも、どうして断ってしまったのだろうか。相手がいればお見合いに誘われることはなくなるのに。

(まさか、人に言えない相手がいるのかな……)

「なぁ智也、最近冷たくない?」
「そんなことないだろ。」
「もう少し優しくしてくれてもいいんじゃねぇの?」
「仕方ないな。ほら、来いよ。」

 変な妄想が浮かんで顔が熱くなった。

「早川さん、大丈夫?顔赤くない?」
「だ、大丈夫です!専務はどうしてお見合いを断ったのかな〜なんて思ったら色々と……」

(妄想が膨らんでしまいました……!)

 私は手でパタパタと扇いだ。

「俺は、好きな人と結婚したいんだ。家や会社の都合じゃなくて、自分が好きになった人と結婚したい……」

 専務の声は商談の時とは違い、柔らかくて暖かかった。

「……そうですね。好きな人と結婚したいです。」

 思わず呟くと、専務は慌てて口を片手で覆った。

「ごめん!変なこと言って。勝手に婚約者のふりを頼んでおいて自分勝手だよね。」

 専務の顔がほんのり赤く染まっている。いつも余裕のある専務が焦っている姿は貴重だ。

「大丈夫です。お力になれてよかったです。」

 今度こそお礼を言って帰ろうとすると、専務に引き留められた。

「早川さん、時間あるなら食事を奢らせてくれない?婚約者になってもらったお礼に。」
「わ、本当ですか!ありがとうございます!」

 憧れの専務と食事だ。否応なしに胸が高鳴ってしまう。

(どこへ連れて行ってくれるのかな……専務のイメージだと、オシャレでラグジュアリーな夜景の見えるホテルのレストランって感じだよね……)

 だけど、連れて来られた場所は見慣れた居酒屋だった。
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