戦火に散った町娘は、敵国の皇太子に奪われて

第1章 戦火の果て

その日、私はすべてを失った。

甲高い悲鳴と共に、空が赤く染まっていく。

「きゃああ!」

耳をつんざく爆音、立ち上る黒煙――港町ローベルは炎に包まれていた。

「お父さん!お母さん!」

必死に家の方へ駆け出そうとした私の腕を、父が掴んだ。

「逃げるんだ!イレーネ!」

その声が終わるか終わらないかのうちに、轟音と共に建物が崩れ落ちる。

土埃の向こうで、父と母の姿が見えなくなった。

「いやああ!」

手を伸ばしても、そこには瓦礫しかない。

「イレーネ!逃げるんだ!」

兄が泣きそうな顔で私の腕を引く。

「だって、お父さんとお母さんが!」

「自分の命が先だ!」

乱れた息を整える暇もなく、私たちは町の裏路地へと駆け込んだ。

背後からは怒号と、剣がぶつかり合う金属音が迫ってくる。

焼けた木の匂いが肺を刺し、視界は赤と黒で塗り潰されていた。
< 1 / 83 >

この作品をシェア

pagetop