美人の香坂さん、酒は強いが恋愛は最弱
  *
「それじゃ、この方向性で進めていくってことでいいかな?」
「そうですね、いいと思います」

一通り方向性がまとまったところで時計を見ると、時刻は2時半を回っていた。
集中していたせいか、お昼ご飯も食べずにぶっ続けで話し合っていたようだ。
そういえば、お昼ご飯まだだ‥‥と思った瞬間、

「ぐううー」

優子のおなかが鳴った。

「あ。ごめん!お腹なっちゃった!」

あわててお腹を押さえても室内に響いたお腹の音はなかったことにはならない。
さらに追い打ちをかけるかの如く、再び「ぐるうー」と大きな音を鳴らした。

香坂優子、27歳女子。
仕事中にお腹が鳴るだけでも恥ずかしいのに、女子社員の癒しの存在である八木の前での粗相に
(穴があったら入りたいとはこういう時に使うんだろうな。
穴に入ってもこの音は聞こえるほど大きいですけど。
いや、むしろ響くかもぉ)
と両手でお腹を摩りながら思った。

「八木君、恥ずかしながら、私のお腹の虫が止まりません」

優子は照れ笑いをしながら八木を見た。
八木は右手で口元を覆い、優子から目を背けた。
よく見ると八木の口はむずむずとしているのがわかる。耳は少し赤くなっている。

「ちょっと!笑うならちゃんと笑ってー!」

と懇願すると
「あはははは!かわいいっ!可愛すぎるっ!」

八木に『かわいい』といわれ優子はドキッとした。
イケメンの破顔の笑顔は破壊力が半端ない。
みんながキャーキャー言う理由もわかるななんて考えていたら、またお腹が「ぐうー」と鳴った。

「もう無理!お腹すいた。お昼休憩にしようよ?」
と言った。
「香坂さん。 今、一番食べたい物ってなんですか?」
「お肉!ものすごくお腹がすいてるからがっつりお肉とごはんが食べたい!」
「お肉、いいですねえ。 じゃ、『肉肉屋さん』ですか?」
「うん」
「やった!!香坂さんと一緒にランチとか嬉しすぎる!!」

万歳をするや八木は満面の笑みをうかべて、立ち上がり、いそいそと机の上に広げられた資料やPCを片付けはじめた。

(この流れは一緒に食べに行くってことだろうか?)

優子は八木の顔を見た。
八木は口を綻ばしていすり、嬉しそうに見れる。
優子は八木の様子を窺うように尋ねた。

「えっと。 一緒に食べに行く?」
「もちろん!!お供しますよ!」
とにこにこしている。
八木の人懐っこい笑顔につられて、優子までにこにこしてくるのだった。


< 17 / 71 >

この作品をシェア

pagetop