美人の香坂さん、酒は強いが恋愛は最弱
  *


「ねえ、なんでサバみそ?」
「?好きだからですけど。サバ苦手なんですか?おいしいんですよ、ここの」
「知ってますよ、ここのサバみそがおいしいってことは」
「香坂さんが注文した唐揚げ定食もおいしいですよね」

この『肉肉屋さん』の1番人気メニューはその店名からも想像できるように焼肉定食だ。次いで唐揚げ定食。
お手頃価格なのに量が多く、味もおいしいと人気の店である。
今は昼食には遅い時間だったが、店内には4,5組の会社員の姿があった。

八木はサバの味噌煮定食を注文した。優子は大盛唐揚げ定食を注文した。

そして、優子は悩んでいた。

(なぜ、『サバ』を注文したのだ?)

腕を組んでじっと八木を見た。八木は
「じっと見つめてなんです?」
と言いながらコップに水を継いでいる。

優子は基本的に二人きりで食事をするのが苦手である。
食べている時の会話のない間が耐えられないのである。
無理やり話そうとするから、よく噛まずに飲み込まなくてはならなくなってしまう。それに共通のネタがあるとは限らない。

(二人ということはどっちかがしゃべらなくてはいけないのだ。
つまり二人で食事というのはかなりハードルが高いものだと思う。
それでも後輩の八木が一緒に肉を食べたいというからランチに来たのだ。
なのに、サバみそって、、、、サバみそって、、、、肉じゃないのか?)

「ねえ、八木君」
「はい?」
「八木君は、、、お肉じゃなくてもーいいの、、、かな?」
「なぜです?」

人様の注文したメニューに質問するなどなかなか失礼なことだろうと思い、言葉を選びつつ尋ねるものだから、優子はしどろもどろになっていた。

「知ってるよ、サバみそがおいしいってことは。
でもね。
さっき『がっつりお肉食べたいー』→『いいですねえー』→『じゃあ一緒に肉食べますかー』やじ「肉肉屋さんー』の流れだったじゃない?
なのに、なんでさば?肉への情熱は?」

「ははっ。肉への情熱って」

八木は面白そうに目を輝かせている。

「香坂さんは肉への情熱が半端ないんですか?」
「うん。お肉大好き。って、いやいや、そうではなくて」
「?」

優子はきょろきょろっと周りを見て、おいでおいでと向かいに座る八木に手招きをした。
二人は前かがみになって顔を近づけた。

「だってさ、お魚なら会社の裏にもおいしいとこあるでしょ」

定員さんに聞こえないように小声で話した。

「何言ってんですか。そしたら香坂さんとごはん一緒に食べられないじゃないですか」
「え!!!」

びっくりして少し飛び上がって姿勢を直してしまった。
八木は口元に手をやりくっくっと笑っている。

「僕は香坂さんと一緒にご飯が食べたかったので、『お腹すいた』→『いいですねー』→『一緒に食べようかー』でサバみそです」
「え?」
「別にお肉目当てで香坂さんとごはんに来たんじゃないです。
僕にとっては何を食べるかより、誰と食べるかが大事です」

優子が固まっていると
「お待たせしましたー。サバみそ定食と大盛唐揚げ定食ですー」
いつもより早く定食が出てきた。

「はい」
と割り箸を渡す八木は、ものすごい笑顔を向けた。そして一言。


「香坂さんと一緒に食べたかったんです」


優子の脈拍は爆上がりだった。


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