美人の香坂さん、酒は強いが恋愛は最弱
視界の端で八木君を確認する。
八木君はほんの少しだけ私を見てコロコロと自分の位置に戻った。
PCの電源をつけてカチャカチャとキーボードをたたいている。
指、綺麗だな・・・。
ごつごつと骨ばった指先がきれいにキーボードをたたいている・・・が、ピタッと指が止まった。
ん?
と思って八木君の顔を見ると、首だけが私を向いていた。

「・・・香坂さん?」
「あわあわあわご、ごめっ」
「もしかして」
八木君は椅子をコロコロして私の横に来た。
今度は真正面から私の真横に来た。
私は少し体を横に逸らしながら、
「もしかして?」
と繰り返した。

「俺のこと意識してくれてます?」
「ええ!?」
「それならもうちょっと頑張ってみようかな」
「ええ!?」
「し・ご・と」
「はああああ!!??」
「あははははははっ」
「もうっ!」
八木君の座った椅子をぐるりと向きを変える・・・変えようとしたけど足が床についてるからうまく回らない。

「ちょっと足上げて!」
「えー。はい。こうですか?」
と両足を浮かせた。
今度こそぐるりと椅子を回転させて、八木君の席に椅子を押した。
「無駄に足が長いのよ!」
と文句を言うと、
「あざーす」
と笑われたいら、
「えいっ」
と椅子を遠くに押してやった。
「ひでえ」
と中腰になって椅子を自分の席に戻していた。


いつもと変わらない八木君に、ほっとした。
けれど、同時に少し寂しく思ってしまう自分がいた・・・・。

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