美人の香坂さん、酒は強いが恋愛は最弱

休憩室

今後の方針を相談して、八木君が企画書を書いて岩瀬さんとまた話し合うことに決まり、ミーティングは終わった。

時刻はとっくに退社時間を過ぎていた。
「ね、八木君、この後飲みに行かない?」
岩瀬さんが八木君の隣に立って話しかける。
その距離がやはり近くて再びモヤッとした。
「すみません。この後約束があるんですよ。
また、斎藤さんとかと一緒に飲みに行きましょうよ」
「そう?残念ね。 斎藤君にも言っておくけど、別に二人でもいいから行こうね」
「えー。でも岩瀬さん、酒弱いし絡むから斎藤さんも一緒がいいです」
「ひどーい!絡まないよ」

ああ。そういうことか。
岩瀬さんは八木君のことが好きなんだな。
だからいきなり一緒にやって来た私の存在が気に入らなかったのか。
ミーティングルームを出た後、廊下で立ち話をする二人を見ながら、気まずさを覚えていた。
そして、仲の良さそうな様子を見せてマウントを取って来る岩瀬さんに恐いと思ってしまう。

「あははは。それじゃ、またメールしますね。
行きましょうか、香坂さん」
「え?あ、うん。
それじゃ、岩瀬さん。失礼します」
「先輩の香坂さんと一緒に会議ができて、すごく勉強になりました。ありがとうございました」
『先輩の』の所を強調してくる岩瀬さんに、いやいや、1個しか違わないのに随分年上扱いされているようでもやっとする。
こういう“マウント”とかって苦手だ。

「こちらこそ、勉強になったわ。ありがとう」
心の声が見えないように注意しながら、にこやかにお辞儀をして企画室に戻った。


「香坂さん、戻る前に何か飲みませんか?」
「うん、いいわね。 私も脳みそ疲れちゃって何か甘いもの飲みたかったの」

二人で休憩室に向かった。
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