美人の香坂さん、酒は強いが恋愛は最弱
「僕、香坂さんとの打ち合わせってめちゃくちゃ好きなんですよ」
八木君の誉め言葉が純粋に嬉しくなった。
「私も、八木君のミーティングってとても話しやすいよ」
「本当っすか!?」
八木君が嬉しそうに声をあげた。

「うん。八木君て基本的に他の人の意見を否定しないでしょ?
話しやすいし、どんどんアイデアが膨らんでいく感じ。
それに加えて八木君自身の着眼点、発想。それを理由付ける説得力も伴って、どんどんまとまっていくのがすごく楽しいって思う」
「どうしよう・・・めちゃくちゃ嬉しい」
目を輝かせている八木君に、
「そういう可愛いところもギャップが合って好き」
と言って笑った・・・・ら?
あ。
ああああああ!!!!!
今、ものすごいことを口走ってしまった!!!

「違うッ!好きっていうか、あのッ!!」
 八木君が片手で顔を覆って、上を向いている。
「好感!! うん!そう! 好感が持てるの!!!」
耳を赤くして上を向き続ける八木君の降りている方の腕を掴んで、揺さぶった。
「ちょっと、聞いてる?」
「聞いてます・・・」
小さな声で言った。
「お願い!テレないで! 私まで恥ずかしくなるから!」
「いや、無理・・・」
え? 無理って何?
顔を覆っていた手をどけて、ゆっくりと私の顔を見おろした。
「こんなこと言われてテレるなと言われても、無理ですよ」
「ごめん」
「恥ずかしいですけど、嬉しいです」
優しい瞳にドキリと心臓が鳴った。

そして、自分が八木君の腕を持ったままなことに気が付いた。
八木君は私が腕を持っても避けない。
真横にいてもその近い距離から下がったりしない。

さっきミーティング室で岩瀬さんに対する態度を思い浮かべた。
親しいだけなら岩瀬さんの方が一緒に働いていた期間は長い。
けれど、八木君はそれとなく距離をとったり、離れたりしていた。
それに昼休憩に絡んでくる人達に、はっきり拒否を示していて驚いた。
私は、本当に特別なの?
こんな風に八木君の好意を感じるなんて、自意識過剰なのだろうか?
それとも、本当に私のことが好きなの?

八木君は、そのまま腕を動かさずに、
「どうしたんですか?」
と優しい声で尋ねた。

「・・・あのさ、えっと・・・」
本当に私のことが好きなのか、なんて八木君に尋ねられるわけもなく、私は、
「えっと、お財布、忘れた」
と誤魔化した。

「なんだ、そんなことですか」
八木君は、
「心配ないですよ、奢りますから」
と笑って、腕を持つ私の手を握り、腕から手を離させた。
そして、
「急ぎますよ」
と、離された手の平に手を添えた。
え・・・。
繋がれた手を引っ張るようにして休憩室に走った。


こここここここれは同僚がするヤツではないでしょう!!!!!!??????


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