美人の香坂さん、酒は強いが恋愛は最弱
「・・・恋人・・・じゃない?」
呟く八木君に、私はしっかりと一度、頷いた。

「私たち、付き合ってないから」
「え?」

襟を掴んだままで八木君は亮太郎に顔を向け、私は続けた。

「従兄妹なの」
「え?」
「亮太郎は私の従兄なの」

亮太郎は目を細め、襟をつかんだまま手を離すこともできずに固まっている八木君を睨んだ。

「手ぇ放せよ」

八木君は慌てて両手をパッと離した。

ふんっと乱れたスーツを直し周囲に目をやる。
「おい、八木。 どうするつもりだ、これ?」

騒ぎに驚いた社員たちが集まってきたようだった。
ドアから何人もの顔がのぞいていた。
こんなにたくさんの人の前で課長に喧嘩を売ったのだ。
タダでは済まないだろう。

「亮太郎、八木君は誤解して、私のために怒ってくれただけだから、ここは穏便に・・・」
「わかってる。 そうじゃなくて、見ろよ。
みんなに俺たちが付き合ってないことがばれたぞ」
「あ、そっち?」

八木君の大声で集まってきた人々に目をやった。

ぼそぼそと「修羅場」だの「従兄妹?」だの囁きあう声が聞こえ、次第には
「じゃ、フリーってこと?」「やった」と盛り上がり始めている。

「そっちじゃねえだろ」
亮太郎は呆れたように首をこすった。
「俺たちが恋人同士じゃないってバレたらいろいろ困るだろ…まあ、何とかするしかねえか。
それより、優子。お前泣きすぎじゃろ・・・」
きゅっと優子の鼻をつまんでほほ笑んだ。

「ほら、靴はいて」
亮太郎はそう言うと、ベットの端に座らせ、跪いた。
靴を履かせる亮太郎に周囲から悲鳴が上がる。

「嘘だろ? この二人を見て誰が付き合ってないと思うんだ?」
と誰かの声がした。

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