美人の香坂さん、酒は強いが恋愛は最弱

悲鳴を無視して、私の頭をポンポンと2回たたき八木君を振り返った亮太郎は、
「八木、もう帰れるのか?」
と尋ねた。

「はい。もう終業時間過ぎてますから」
「俺たち帰るけど、八木も一緒に来るか?」
といつもの冷静な声で言った。

「え?あ、はい!行きます!
俺、荷物取ってきます」
「分かった。 駐車場にいるから」
「はい。 口田課長、携帯番号教えていただいていいですか?」
ベッドに腰かける私の横で、二人がスマホをだしていた。

八木君も一緒に来るのだろうか?
亮太郎は何があったのか聞きたいのだろうか?
「亮太郎、八木君に悪いから。 私が説明するよ」

「・・・・・・」
亮太郎は目を細めて私を見おろした。

そして、隣に立つ八木くんに視線を移し、
「・・・どうする? 付いて来ても来なくても、どっちでもいいぞ」
と問うた。
「行きます。 俺も聞きたいことが山ほどあるんで」
亮太郎はうなずくと、
「車にいる」
と言って、しゃがんで私を見あげた。

「優子、抱っことおんぶどっちがいい?」
「歩けるよ」
「遠慮するな」
「してない」
亮太郎は過保護っぷりを炸裂した。

ふうーっと息を吐いて立ち上がった。
一瞬視界が暗くなってフラついた。
「香坂さんッ」
「優子ッ」
二人に両脇から腕と肩を掴まれる。
「ご、ごめん。大丈夫。 立ち眩みしただけだから」
と二人の手を押した。

「急に立ち上がるけえ・・・気をつけぇよ」
「ごめん」
へらっと笑った。
「八木、さっさと荷物取って来いよ」
「あ、はい」

ゆっくり手を放した八木君は、ペコリとお辞儀をして部屋を出た。

私達は亮太郎の車に乗るために駐車場に向かった。
もちろん、抱っこもおんぶもされずに歩いて行った。

< 52 / 71 >

この作品をシェア

pagetop