美人の香坂さん、酒は強いが恋愛は最弱
  *
亮太郎の車の助手席に座った。
買ってもらったペットボトルの水を飲んで外をぼうっと眺めた。

「亮太郎」
「ん?」

「八木君と何を話すつもりなの?」
「まあ、まずは優子を助けてもらったんじゃけぇ、そのお礼だろ?
それと、俺たちが従兄妹で、俺が優子の保護者ってこと。
外面いいくせに本当は全然人を信じてないとか。
あとはお前が元彼とひどい別れをしてから、恋愛に無茶苦茶臆病になったってこととか。
それから…」
「最初の二つはともかく、後半のは別に八木君に言う必要ないと思う」
ハンドルに手を置いて指折り数える亮太郎にストップをかける。

「なんで言ーちゃダメなんじゃ?」
「せっかく人当たりがいい人っぽくしとんのに、イメージ壊すようなこと言わんでや」

「お前、八木には人見知りしとらんかったじゃろ?」
「そりゃそーじゃけど。それは話しやすいいい人じゃけえ、私だって気にせんでよかったし、話しやすかっただけじゃし」

「お前が知り合って1か月もたたんうちに素で話しよるとこなんぞ、あの男と別れてからはじめて見たぞ」
「そんなこと‥‥あるけれども!」

「あれから警戒せんで話すヤツおったか?」
「・・・おらんけど」

「八木は、優子にとって、『特別』・・・なんじゃないんか?」
「‥‥‥八木君は、そうゆーんじゃない・・・」

「‥‥‥」
「‥‥‥」
コン、コン。

重い空気の中、遠慮がちに窓ガラスがノックされ、八木君が顔をのぞかせた。

「お疲れ様です!
すみません。お待たせしました」

八木君がいつも通り爽やかに微笑んだ。
心なしか悲しそうに見えるのは、やはりこれから亮太郎に受ける尋問を想像しているのだろうか?



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