美人の香坂さん、酒は強いが恋愛は最弱
第5章

亮太郎の後悔

【side 八木俊樹】

二人の後を追って駐車場に着いた俺は、口田課長から聞いた車をすぐに見つけることはできた。

近付くと運転席の窓が少し開いていて、二人の会話が聞こえてきた。


「・・・・・・・・!」
「・・・・・・!」

きっと二人の会話を聞かせたかったのかもしれない。
でも、口田課長・・・。
方言だらけな上、早口で何を言っているのか理解できないですよ。

喧嘩してるのか?
俺にどうしろというんですかー!?
声を掛けるべきか、掛けざるべきか。むちゃくちゃ悩む!


「八木は、優子にとって、『特別』・・・なんじゃないんか?」
「‥‥‥八木君は、そうゆーんじゃない・・・」


うわあ・・・・・。
こんなとこだけゆっくり言わないでくれよ。

俺は香坂さんにとって『特別な存在』になりたいのに・・・。
「はぁ」
小さく溜息をついた。

頑張れ、俺。

自分自身を鼓舞して、窓ガラスをノックした。


俺は後部座席に乗り込んだ。
少しして、
「あのね・・・さっきの会話って、聞こえて、た?」
と香坂さんが恐る恐る聞いた。

「二人の会話ですか?」
「うん」
「聞こえてました。音声的には、ですけど」
「んん?」
「ちょっと早口で聞きなれない言葉だったので理解はできませんでした」
「ああ、そっか」
「チッ」

『チッ』ってなんだよ?
口田課長はわざと俺がフラれるのを聞かせたかったのか?

「じゃ、出すぞ」
ゆっくりと車は発進した。


「ところでこの車ってどこに向かってるんですか?」
「俺んち」
「は?うちじゃないの?」
「優子、お前今日俺んち泊れ」

「「はあ!?」」 
「だめです!!」
「嫌だよ!!」
香坂さんと俺は同時に叫んだ。
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