美人の香坂さん、酒は強いが恋愛は最弱
【side 八木俊樹】

「だめだ。 夜中に倒れたらどうするんだ。
八木も。 俺たちは心配するような関係ではないから」

従兄妹は結婚だってできるはずだ。
心配しないわけがないだろうと言いたいのをぐっとこらえた。

「今日は・・・突然、あの人に会ったから・・・いろいろ思い出しちゃって・・・倒れちゃっただけだから。
もう全然大丈夫だよ」
「何年も前に別れた男と会ったぐらいで倒れること自体が心配なんだよ。
それに顔色がまだ悪いぞ。 熱があるんじゃないか?」
「ないよ」

「ちょっと寝とけ」
「大丈夫だって」

「・・・うちで熱計ってなかったら家まで送っちゃる」
「寝るわ。 ごめん、八木君ちょっと寝るね、熱、さげたいから。
適当に亮太郎に付き合ってやって」

「はい。大丈夫ですか?」
「大丈夫、大丈夫。心配かけちゃってごめんね。
あ、その横のクッション取ってもらっていい?」
「えっと、これですか?」
「うん、それ」

四角いクッションを渡すと、香坂さんは慣れた手つきでクッションのファスナーを開けて、中からブランケットを取り出し、肩から身体に掛けた。
俺に体を背けるように左を向いた。
窓ガラスにぼんやりと映る香坂さんが目を閉じて、俺はドキっとした。

口田課長が助手席のサンバイザーを降ろして、香坂さんの顔に日光が当たらないように気を配った。


『俺たちは心配するような関係ではないから』だって?
どこがだよ。
イチャイチャじゃねーか。
この二人の様子を後ろから見て嫉妬して、イライラしてしまう。


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