美人の香坂さん、酒は強いが恋愛は最弱

根っからのお兄ちゃん

【side 香坂優子】

「はい、発熱」
亮太郎の家に着くなり熱を計らされ、風呂にぶちこまれた。

「シャワーだけサクッと浴びてこい」
と言われフラフラしながら全身を洗う。
なぜに八木君がいるのだ?

いつもみたいにどうでもいい格好で出ていくわけにもいかず、髪をきちんと乾かした。

お風呂場から出ると、亮太郎がお粥を作ってくれていた。
「食べろ」
「飲め」
「歯みがき」
と命ぜられて、お粥を少し食べて薬を飲んで歯磨きをした。

額に熱とりシートを貼られる様子を、じーーーっとみつめる八木君に居心地の悪さを感じつつ、
「八木くん、今日はありがとう。
迷惑かけちゃってごめんね」
と謝った。
「いえ。問題ないです。
それよりしっかり休んで体調をととのえてください」
と言う八木君をあとに、私は寝室に行った。

亮太郎が氷枕をセットして、私はベッドに入った。
「亮太郎」
「んー?」
「ごめんね」
「気にせんでええ。それよりしっかり寝て熱下げぇ」
「うん。おやすみ」
「おやすみ」

布団を掛けられ、目を閉じ…再び開けて、
「八木君も泊まるの?」
「いや、帰すよ」
「そか。よかった」

「優子は…」
「ん?」
「いや。なんでもない。
おやすみ」
「うん。おやすみ」

亮太郎の家に泊まるのは久しぶりだな。

目を閉じて眠りたかったが、なかなか眠ることはできなかった。
優のことを思い出して、また胸が苦しくなる。

寝なくちゃ。
寝なきゃ。
大丈夫、眠れる。
眠れないよ…。
ボロボロと溢れる涙が氷枕に巻かれたタオルを濡らした。



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