美人の香坂さん、酒は強いが恋愛は最弱
「すみません。やっぱりちょっと多かったですね」
と埋まっていく冷蔵庫のスペースに、八木くんが苦笑いをした。

「フフッ。そうだねー」
困ったように眉をさげる顔がかわいくて、ついクスクスと笑ってしまう。

「あ、笑ってます?」
「笑ってないよ」
と言いながらフルーツの盛り合わせを野菜室にいれて、振り返る。

背の高い八木くんが少し背中を丸め、私の顔を見ていた。
つまり、近距離に八木くんの美しい顔面があった。

「あ」

その近さに慌てて私は目をそらした。
ドキドキと早く打つ心臓の音を誤魔化すように、急いで八木くんが渡そうとしていたゼリーを冷蔵庫に入れるべく手に取った。

「あっ」

ガザン!
手が滑って、ゼリーの袋が床に落ちた。

「「あっ!」」

慌てて屈んで袋を拾う。

ゴン!!

「いたっ!」
「いてっ!」

頭をぶつけて撫でながら見ると、同じように屈んだ八木くんも頭に手を当てていた。

「「はははっ」」

二人とも軽く声をあげて笑った。
互いに互いを見たから、私たちは至近距離で目があった。

見つめ合ってることに気づく。
笑いが止まった。
動きも止まっている。
瞳の中に映る自分の顔がわかる。
何か、言わなくちゃ。

何かって、なに?!

今にも唇が触れそうなその距離に私は焦っていた。

「好きです」
「え?」

今、何て言った?

見開いた瞳で八木君を見つめた。


「俺、香坂さんが好きです」

「えええええ!?」

私は驚いて立ち上がった。

ガンッ!

「いだ!!!」
「香坂さん!」

後頭部に衝撃が走った!!

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