美人の香坂さん、酒は強いが恋愛は最弱
「いたーーーい!」
冷蔵庫の扉で強打した後頭部をゴシゴシと高速で撫でた。

「だ、大丈夫ですか!?今、すごい音が…!」
八木君が後頭部に触れた。


「後ろ頭? どのあたりですか?」
「ここ・・・あ。でも大丈夫、大丈夫」
ぶつけた部分をごしごしと擦って痛みを拡散させた。
「とりあえず冷やしましょう。 冷凍庫開けますね」
そう言って冷凍庫から保冷剤を取り出し、自分のポケットからアイロンがかけられたハンカチを出して保冷剤をくるんだ。
「いいよ」

「よくない。 じっとして」
保冷剤を後頭部に当てられる。

八木君のワイシャツが目の前にあって、二人の距離の近さに緊張してしまう。

「髪、濡れてる」
頭のすぐ上で八木君の声がした。

「あ、さっき、シャワー浴びたから」
「乾かさないと」
「あ、う、うん・・・ふふふッ」
「ん?」

「頭冷やしたり、乾かしたり忙しいね」
「確かに・・・。それなら、もう少し冷やしたら髪、乾かしましょうか」
「うん」

「・・・・・・」
「・・・・・・」

いつもだったら気にならない沈黙。
けれど、今はとても気になる。
この静けさのせいで、私の心臓の音が八木君に聞こえちゃうんじゃないかと心配になる。

耐え切れなくなって、
「ちょっと頭が冷たくなってきた」
と言うと、八木君は慌てて、
「すぐに乾かしましょう」
と言った。
八木君の過保護な慌てぶりに笑いが零れた。

「あははは。 もう痛くないよ、ありがとう八木君。 
私、髪、乾かしてくるね」
私は洗面所に向かうために立ち上がった。

テレビのリモコンを取って、電源ボタンを押す。
「八木君、テレビでも見てて」
と言った。

気まずい距離から離れてホッとしたような、でも少し寂しいような気がする・・・。
ううん、気のせい!

手を左右に振って無理やり気持ちを変える。
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