美人の香坂さん、酒は強いが恋愛は最弱
八木君は洗面所へ行こうとする私の手首を持った。

振り返った私と目が合う。

八木君は手首を離し、
「香坂さん、タオルとドライヤー、こっちに持ってきてもらっていいですか?」
と言った。

「・・・・・」
「・・・・・」
これは絶対、八木君が髪を乾かすつもりなヤツだ。

「やだ」
「は?」

「いやだ!」

ててててっと洗面所に走って行く。
引き戸を開けて中に飛び込みドアを閉める。
ガシッ。
引き戸を閉める前に、八木君がドアを掴んだ。

「自分でできるッ!」
「立ったままで乾かしたりして倒れたらどうするんですか?」
「倒れないしッ」
「昨日倒れたし、今だって頭うったでしょ?」
「うーーー。八木君、過保護!」
「心配なんですよ!」

過保護な上、頑固者な者な一面を見せた八木君はじいちゃんに似てるなと思ってしまった。
じいちゃんに勝ったことのない私は、八木君にも負けるんだろうなと大人しく(ふてくされて)ドライヤーを持ってソファの前に座った。

すぐ近くの延長コードにプラグを差し込んだ。

そして、八木君に、
「自分でできる」
と幼稚園児のように言って、自分で髪を乾かした。


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