美人の香坂さん、酒は強いが恋愛は最弱

甘く溶けるような

「よかったあ、大丈夫そう。少し溶けかけてるけど、柔らかくなって食べごろって感じ!多分!」
アイスはカップにはいってて、抹茶とチョコの2つが入っていた。
「一緒に食べよっか。でもその前に他の物を冷蔵庫に入れちゃおう」


優子は抹茶、八木はチョコのアイスを食べた。
少し柔らかくなりすぎていたけど、甘くて冷たくてふたりで「おいしい」といいながら食べた。

八木君が
「抹茶味もちょっと食べたいです」
というのでカップを差し出した。
それを掬って「おいしい」と食べた。

「おかえし」
八木君は自分の食べているスプーンでアイスを掬って私の口元に運んだ。

ドキドキしたけど、平静を装ってそれを食べた。
なんなら少し楽しいとか思っちゃうのはなんでだ?



八木は明るくて、元気で、子犬のようなイメージが定着しているのに、今日はいつもと違った。
そこはかとなく・・・いや、完全に色気が駄々洩れしている。

これって絶対やばい奴だよね?あ!!もしかしていつぞやいってた「狼」バージョン!?

などと考えていると、目が合って・・・そっと片手で抱きしめられた。
「ちょちょちょちょちょちょちょちょちょちょ、待って!」
と八木君の胸を押して体を離した。

「待ちたくない」
「いやいや、これ、狼バージョンだよね」
「?」
「子犬じゃなくて狼になるかもって言ってたの」
「ああ~」
八木は思い出したらしくポンっと胸の前で手を叩く。

「でも、俺は香坂さんのドーベルマンのつもりですよ」
「ドーベルマンは襲わない」
「襲うって・・・」
八木君は躊躇したようで、優子の背中から方に移った手を離した。

「俺、香坂さんが好きです。
新人研修で初めて会った時から、素敵な人だと思って、ずっと気になってました。
一緒に仕事するようになってどんどん好きになっていって。
口田課長と付き合ってるって思ってたのが違ってると分かったら・・・そしたら、もう、好きな気持ちが止まりません」
「・・・八木君・・・」

「今、香坂さん落ち込ん出るってわかってます。
昔のこと忘れられなくて苦しんでるって分かってて、今日来ました。
ほっとけなくて。大好きで」
じっと見つめる八木君の瞳から目が離せない。
体もピクリとも動けない。
息の仕方を忘れたかのようで、胸がぎゅっと締め付けられて苦しくなってしまう。



「香坂さんの恋人になりたい。

「え?」
「俺にしませんか?」
「えっと…」
「俺にすがってみませんか?」

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