美人の香坂さん、酒は強いが恋愛は最弱
再び二人の間に沈黙が流れる。


「私・・・八木君のこと嫌いじゃない。
でも誰かと付き合うとか・・・恐いんだ。
聞いたかな?私、浮気されたんだ。
・・・ううん。私が浮気相手だったみたいで・・・。
私、彼にストーカーって言われて・・・。
もう、誰かを信じるとか、疑うとか、裏切られるとか・・・そういうの嫌なんだよ。
八木君が嫌とか、信じてないとか、そういうのじゃない。
・・なんなら、八木君のことは信じれるって思う気持ちもあるの。
でも・・・・。
人と深く関わるのが、恐い・・・」

重い沈黙が二人の間に広がった。
さっきまでの楽しい雰囲気が嘘のように全くなくなっていた。

私の目からは涙が溢れていた。
八木君は親指で涙を拭った。
「俺のこと、嫌いじゃないんですよね」
「うん」

「俺のこと、信じてはくれてるんですよね」
「・・・うん」

「約束します。
俺、絶対に香坂さんが恐がるようなことはしません。
ただ、あなたの一番近くにいる男になりたい」
「・・・うーーーー」
更に涙が溢れてくる。

「香坂さん・・・ごめん、恐い?」
「ち、ちが・・・。
恐くて・・・恐くて泣いてるんじゃない」
「本当?」
「うん」
目から溢れてくる涙をそっと何度も何度も、大切なものに触れるかのようにそっと拭ってくれている。

このままもっと八木君に触れて欲しいと思ってしまう。
恋愛が恐いのに、八木君のことが好きだと思って涙が出てしまう。

「ずるいんだよ、私。
昔にとらわれて、苦しくて、こんな自分が嫌で・・・変わりたいのに恐くて・・・なのに・・・」
「・・・なのに?」
八木君の優しい声に勇気を出す。

「・・・このまま八木君に抱きしめて・・・・キスして欲しいって・・・・思ったりしてて‥んっ」
八木君の唇に唇を塞がれた。


< 69 / 71 >

この作品をシェア

pagetop