美人の香坂さん、酒は強いが恋愛は最弱
「ええーそうなんですか?」
「あ、もしよかったら八木君も一緒に行きませんか?」
いきなり話を振られる八木君は、
「え?僕もですか? 
うーん。ご一緒したいんですけど、ちょっと急いでるので・・・すみません。
香坂さん、行きましょうか?」
と一瞬驚いた後、爽やかな微笑みを浮かべて、きっぱりと断ってくれた。

「あ、うん、行こう。 あの、ごめんなさい」
会釈をしてその場を後にしようとした。
「あのっ!口田課長と別れたって本当ですか?」
真ん中に立つ女性が私に詰め寄った。

ああ。なるほど、女の子たちはそれが聞きたかったのか。
こんなに隠れ亮太郎ファンがいたなんて知らなかった。
そんなことを思いつつ、3人ににっこりと微笑んで、
「ごめんなさい」
とだけ言って、
「行こう、八木君」
と再び歩き始めた。

「香坂さん、八木君を狙ってるって本当ですか?」
「は?」
思わず振り返ると、
「八木君と付き合うために口田課長と別れたんですか?」
「はあ!?」
どこでどうなったらそんな話になるんだ!?

「私、亮太郎、口田課長とは従兄妹です。・・・八木君は・・・」
どうしよう。なんて言う?
お付き合いしてます?
恋人です?
それともここはなんでもないと嘘を付く?
どれがいいのか高速で悩んでいると、
「香坂さん」
八木君が私の言葉を遮った。

「言う必要ないですよ」
「八木君・・・」
「これって個人的なことですよね?」
八木君は、私の前に立ち彼女達との間に入った。

「どうして知らない人に教えなくちゃいけないんですか? 
むしろ、どうして教えてもらえると思ったのか理解できませんね」
さっきまでの爽やかさを一切封印して、冷ややかに見降ろしていた。

「そ、それはみんなが気にしてることだから」
「香坂さんだって誤解なら解いた方がいいと思ったし。ね?」
「うん。部署は違っても同じ会社だし、全然知らない人っていうわけじゃないと思う」
3人で同意し合う彼女等に、
「いやいやいやいや。 俺、皆さんのこと知りませんよ」
と言い切った。

「「「ひどい!」」」
「ひどいって・・・自分の知らない人に自分のことをあれこれ詮索されるとか気持ち悪くないですか?
いい人ぶってますけど、休憩するのを待ち伏せしてますよね?
これってストーキングですか?
それとも嫌がらせですか?
社会人なんですから、失礼なことしてるって分かってますよね?
はっきり言って気分が悪いです」

「そんな風に言わなくても・・・」
一人が泣きだして、他の二人がその子を庇う。
「もう昼飯食べに行きたいんで、失礼してもいいですか?」
「最低!」
「こんな人だと思わなかった!」
「バカ八木!」

3人はくっついて企画室を出て行った。
私達は3人を見送った。
遠巻きに見ていた人たちもこそこそと離れて行った。

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