亡国の聖女は氷帝に溺愛される
「皇帝陛下に拝謁いたします」

 少女は立ち上がると、ゆっくりと歩き出した。その足先はヴィルジールが座る玉座へ向けられている。

 少女との距離が縮まるほどに、ヴィルジールの頭痛は強くなっていった。短い階段の下に立つエヴァンが、ヴィルジールと少女を交互に見ては焦った顔をしている。

 ひときわ強い痛みを感じた瞬間、ヴィルジールの身体は凄まじい冷気を帯びて、少女との間に分厚い氷の壁を生み出していた。

 だが、それはほんの一瞬で砕け散った。──かと思えば、瞬きをひとつした瞬間に、光の粉に変わり、辺りを眩しくさせた。

 目の前にいる、美しい少女の指先によって。

「御前で許可なく力を使ったこと、お許しください」

 ヴィルジールは片手で頭を押さえながら、ふらりと視線を持ち上げる。

「……お前は?」

「わたくしはレイチェル。イージス神聖王国の聖女だった者です」

 レイチェルと名乗った少女は唇を薄く開くと、小鳥が歌うような声で返した。

「イージスの聖女だと?」

 飛び立つ勢いでヴィルジールは玉座から腰を上げたが、くらりと目眩がして、すぐに座り直した。エヴァンの隣にいるセシルが駆け寄ってきて、心配そうに顔を歪めている。
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