亡国の聖女は氷帝に溺愛される


 青い花が揺れている。その花は城でしか咲かないという不思議な花で、棘がない薔薇のような見た目をしている。

 レインユールと呼ばれ、帝国の王族に親しまれてきたその花は、いつしか国の紋章になっていた。

「──で、大至急僕を呼び戻した理由って何?」

 レインユールの花が揺れる花瓶を見つめていたノエルの瞳が、ヴィルジールへと注がれる。

 青色のケープコートを羽織り、首元に帝国の紋章の装飾品を付けているノエルは、ヴィルジールからの依頼で帝国内の要所を回っていた。

「単刀直入に聞く。イージスの聖女は二人いるのか?」

「はあ?」

 どういうことかと、ノエルが目で訴えてくる。
 ヴィルジールはノエルの視線に首肯して、紙を突きつけた。

 それはイージス神聖王国の聖女を名乗った、レイチェルという少女に関する報告書だ。とは言っても、外見と謁見時の出来事が細やかに書かれているだけで、彼女に関することは何も記されていない。

 調べようにも、イージスというのは元より情報の少ない国だ。隣接している国だが、歴史を辿っても交流はなく、調査をさせるにしても無の大地と化した国から得られる情報は皆無だ。

 ノエルは報告書からヴィルジールに視線を戻すと、真剣な顔つきで口を開いた。
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