亡国の聖女は氷帝に溺愛される
「そのレイチェルって女に会わせて」

「あの女も聖女なのか?」

「それは分からない。だけどイージスの聖女は、あんたが拾ったルーチェで間違いないよ。五年間二人の側にいた、僕が証人だ」

 ノエルはきゅっと唇を引き結ぶと、ヴィルジールの執務机に両手をついた。

「イージスの聖女は、たったひとり。唯一無二の力を持っていた、ルーチェだけだ」

 霧を払うような、強く澄んだ声からは、嘘偽りは一切感じられない。

 ヴィルジールは息を呑んでノエルを見つめた。

 魔法大国・マーズが誇る神童であり、最年少で大魔法使いの座に着いたノエル。神秘的なヴェールに包まれた君主が治める国・イージスの聖王から祝福を受け、聖女のこともよく知る彼がそう言うならば、間違いないのだろう。

 ヴィルジールは立ち上がり、ノエルと向き直った。

「会うのは構わないが、もう一つだけ聞きたいことがある。──聖女の剣というものに、聞き覚えはあるか?」

「聖女の剣?」

 眉を顰めるノエルに、ヴィルジールは深く頷いた。

「ここ数日、夢の中である女が現れ、不思議なものを見た。どうやらその女はソレイユという名の聖女で、祖先と盟約を交わしたという」

 濡羽色の艶やかな髪と、濡れた赤色の唇を思い出す。何故かルーチェと重なって見えたことも。

「聖女の剣というものは知らない。だけど、ソレイユという名には憶えがある」

 ノエルは口元に手を当てながら、静かな声音で告げる。

「聖女ソレイユは、イージス神聖王国のはじまりの聖女だ」

 ヴィルジールは一瞬息を止め、抱いた驚きを鎮めてからまた息を吸った。
< 138 / 283 >

この作品をシェア

pagetop