亡国の聖女は氷帝に溺愛される
 ソレイユ宮に戻ったルーチェは、早速庭に出ていた。花を植えたいと言ったルーチェに、セルカもイデルも自分たちが代わりにやると申し出てきたが、ルーチェは笑顔で断った。

 日頃の感謝と、これまでのお返しに、いちばん好きな花を贈りたいのだ。自らの手で育て、咲かせたものでなければ意味がない。

 おろおろするイデルと、根負けしたセルカと笑い合いながら、ルーチェはウィンクルムの花の種を植えたのだった。


 ──その夜、ルーチェは不思議な声を聞いた。

『──聖女よ。イージスのいとし子よ』

 鈴のように涼しい声が、テラスの方から聞こえてきた。

 ルーチェはベッドで目を閉じていたが、すぐに起きて布団を捲った。ブランケットを羽織り、声の主を探して歩き出す。

『──わたくしはここです。聖女』

 声はやはりテラスからだ。閉じていたカーテンを開けると、ガラス扉の向こうには朧げな光が浮かんでいる。──正確には、柵の向こう側に。

 鍵を開けてテラスに出ると、光の玉がルーチェの目の前にやってきた。

 それは、今にも消えてしまいそうな、小さな光だった。

『よかった。声が届くようになったのですね』

「……前にも私を呼んだことがあるのですか?」

『ええ、あなたがこの地に来た日からずっと。何度も呼びかけたのですが、力を喪ったあなたに届けることは難しかったのでしょう。あの魔法使いが光を灯し、あなたも光を灯せるようになったことで、聞こえるようになったようですね』

 ルーチェは胸元に手を手繰り寄せてから、光に手を伸ばした。
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