亡国の聖女は氷帝に溺愛される
「っ……、な、何が……」

 背中を壁に強打したのか、身体を動かした瞬間に鈍い痛みが奔った。ルーチェは顔を顰めながら、けほけほと咳き込む。

『──聖女よ、大丈夫ですか!』

 飛ばされたルーチェを追ってきたのか、光が宙を動き回っている。

 ルーチェは喉元に手を当てながら頷く。壁に手をついて足に力を入れたが、立つことができなかった。自分の身体だというのに、上手く動かせない。

(──何が起きたの)

 やっとの思いで顔を上げると、テラスの前に人影があった。

 ルーチェは身構え、目を凝らす。立ち上る黒い煙の向こうから、誰かが近づいてきている。

「──やっと、貴女の顔を拝めるわ」

 歌うような声が何かを唱え、ルーチェの身体を壁に縫い付けた。抜け出そうにも体に力が入らず、どうすることもできない。

 しかし首から上だけは動かすことが出来たので、ルーチェは息を凝らすように、声の主へと視線を送った。

 そこにいるのは、黄金色の髪をたなびかせている美しい少女だった。ルーチェと同じ菫色の瞳が、底知れない光を放っている。

 少女は薔薇色の唇を横に引くと、荒れ狂う風をルーチェに向けて放った。
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