亡国の聖女は氷帝に溺愛される

繋がれた手

「──セントローズ公爵に何を言われていたんだ?」

 ルーチェは息を吐きながら、アゼフが去った方角に背を向けた。

「大したことではありません」

「大したことしか言わないぞ。あのオッサンは」

 アスランはルーチェに話す気がないことを察したのか、後ろで控えていたセルカに目線を送った。セルカもルーチェ同様に何も言う気がないのか、黙って前を見ている。

「まぁ、言いたくないなら構わないが」

 ルーチェは小さく喉を鳴らしてから応えた。

「そういうわけではないのです」

「どういうわけなんだ? ジルには黙っててやるから、話してみろ」

 ルーチェは周囲に人がいないか、ぐるりと見回した。その姿を見て、アスランは「こっちに来い」と手招きをすると、近くにある部屋の扉を開けた。

 中に入り、扉が閉まったのを確認してから、ルーチェは口を開く。

「セントローズ公爵様からは、ヴィルジールさまの話を一方的に聞かされていました。それも悪意のある言い方で……」

「あのオッサンはジルを恨んでるからな」

「では、公爵様が言っていたことは事実なのですか?」

 アスランは壁に預けていた背をぐいっと戻し、前のめりになってルーチェの顔を覗き込んだ。
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