亡国の聖女は氷帝に溺愛される
「公爵は何と言ったんだ?」

「……ヴィルジールさまが、公爵様のご家族を……と。王族を皆殺しにして、玉座についたとも」

 そう言い終えた時にはもう、ルーチェの顔色は暗いものになっていた。

 これから城下の花市を見に行くところだったのに、と。自分が誘ったばかりに、アゼフとルーチェを引き合わせてしまったセルカは、悲しげに瞳を揺らしていた。

 アスランは腕を組んで重いため息を吐いた。

「それで? その話を信じたのか?」

 ルーチェは俯いた。どうしたら良いのか分からないからだ。

「それ以前に、どうして私にその話をしたのかが分からないのです。私はヴィルジールさまのお妃候補でもなければ、貴族の娘でもありません」

「……それは、あれだな。ジルにもお前にもその気がなくても、実際お前は救国の聖女のような立ち位置で、王宮に居てもらっている。だから面白くなかったんじゃないか。次期皇后候補だった娘と孫を喪った公爵からしたら」

 ルーチェは顔を上げて、アスランの顔をまじまじと見た。

 アスランは思っていることがすぐに顔に出る、正直な人だ。今の表情から察するに、公爵がルーチェに向けて言った言葉は嘘ではないのだろう。

「……本当に、娘さんやお孫さんは、ヴィルジールさまに?」

 ルーチェが恐る恐る尋ねると、アスランはふっと息をついてから答えた。

「事実であることは確かだ」
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