亡国の聖女は氷帝に溺愛される
 その姿を見て、ある事を思いついたルーチェは、ヴィルジールの手を掴んだ。

「ルーチェ、何を──」

 ルーチェは掴んだヴィルジールの手を窓に寄せ、ふりふりと振ってみせた。すると、窓の向こうにいる子供のひとりが、それはそれは嬉しそうに顔を綻ばせながら、皇帝陛下、と声を上げた。

 ヴィルジールは軽く目を見張りながら、窓の外をじっと見ていた。その手はまだ、窓の縁に添えられている。

「ほんの少しだけ、勇気を出してみませんか」

 ルーチェの声に、ヴィルジールはまぶたを弾ませた。

「……どういう意味だ?」

 深い青色の瞳がルーチェを真っ直ぐに見つめる。
 ルーチェはヴィルジールを見つめ返しながら、薄らと唇を開いた。

「ヴィルジールさまは他人に興味がないのではなく、どう接したらよいのかが分からないように見えたのです」

 青色の瞳が濃くなる。雫が水溜まりに落ちて波紋を広げるように、それは一度だけ揺れた。

「私の知るヴィルジールさまと、他の人が言うヴィルジールさまの姿は、とても違っていました。ヴィルジールさまが、何故氷帝と呼ばれ、冷たいなどと言われているのか、私は不思議でしょうがないのです」

「……それは、その通りだからだと思うが」

 いいえ、とルーチェは首を左右に振った。
< 212 / 283 >

この作品をシェア

pagetop