亡国の聖女は氷帝に溺愛される
 目を閉じると、自分と繋がっている糸のようなものを感じるのだ。あたたかく光るそれは二本あり、ひとつは聖獣と、もうひとつは聖王と繋がっている。

 胸の内でその相手を想うと、存在を感じることができるのだ。今はどこにいるのか、ちゃんと息をしているか、悲しい思いをしていないか──全てが伝わってくる。

 ルーチェは空を仰いだ後、ヴィルジールと向き直った。

「──ヴィルジールさま。わたしの本当の名は、フィオナといいます」

 ルーチェの左手とヴィルジールの右手は繋がれたままだ。いつから繋がれていたのかルーチェは気づいていたが、ヴィルジールは気づいていなかったようで。

 手を通して伝わるものがあったのか、ヴィルジールは自分の手に視線を落としていたが、すぐに顔を上げた。

「……そうか。思い出したんだな」

 確かめるような、ほっとしたような声音で。長く捜していたものが見つかったような表情で。

 ヴィルジールは頬を緩めると、繋いだルーチェの手に力を込めた。

「……聞いて、くださいますか? この国に来る前の話を」

「当たり前だろう。……だが、まずはあいつらに無事を知らせるのが先だ」

 ヴィルジールが後方に聳える崖を見上げる。随分と高い場所から落ちてきたようで、人影は見えない。

「でしたら、私の聖獣に行ってもらいましょう。驚かせてしまうかもしれませんが、冷静なセルカさんなら気づいてくれるはずです」

 ルーチェはゆっくりとまぶたを下ろす。糸を手繰り寄せるように、己の聖獣の名を喚ぶと、銀色の翼が再び宙に現れた。

「お願い。上にいるセルカさんたちに、これを届けて」

 ルーチェは横髪に編み込まれていたリボンを解くと、聖獣の翼に括り付けていく。

 呆気に取られているヴィルジールを余所に、聖獣は翼を羽ばたかせながら上昇していった。
< 218 / 283 >

この作品をシェア

pagetop