亡国の聖女は氷帝に溺愛される

「──僕、あのまま聖女の記憶が戻らなくてもいいやって、思ってたんだよね。ルーチェとして帝国で好きなように生きて、穏やかに暮らしてくれたらって思ってた」

 ヴィルジールは黙ってうなずいた。
 それはヴィルジールも思っていたことだった。ルーチェはルーチェのままで、ずっと居てくれたらと──願ってしまう自分がいた。

「……記憶が戻ったら、悲しむのは分かってたから」

「やはり、お前は知っていたんだな」

 零すように呟いたヴィルジールに、ノエルは微笑みで返した。

「全部、知ってたよ。だけど知らないふりをしてくれって、聖王様と約束をしていたから」

 ヴィルジールはくしゃりと髪を掻き上げた。頭を最大限に働かせながら、ノエルが明かした事の意味を考える。

 ノエルは一度訪れたことのある場所なら、たとえ遠く離れていても“視える”と言っていた。つまりその力を使うことで、視えたものから情報を知り得ることが出来るというわけだ。

 それはノエルが“イージスが滅んだ日”のことを視ていたということに相違ないだろう。

「少し前に、ルーチェが聖王の意識と繋がり、言葉を交わすことができたと言っていた。その時に、イージスを滅ぼしたのはあの竜であると、聖王が言っていたらしいが……あれと聖王は闘い、敗れたのか?」

「そこまで知ってるなら、話してもいいけど……ここから先は聖女には話さないって、約束してくれる?」

 ノエルの真摯な眼差しと声音に、ヴィルジールは固い声で返事をした。
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