亡国の聖女は氷帝に溺愛される
「当代の聖王と聖女は、国の存続に関わる重大な儀式を遂げなかった。だから、イージスは竜の業火に焼かれて滅んだ」

「本来ならば、その儀式で何をしなければならなかったんだ……?」

 掠れた声で問うたヴィルジールに、ノエルは毅然とした態度で応えた。

「聖女が肉体を竜に捧げる。その血肉は、竜を十五年だけ封じることができる」

「───何を馬鹿な」

「イージスの聖女は竜に捧げられて死ぬ宿命を背負っている」

 ガシャン、と。ヴィルジールの手から滑り落ちたカップが、床の上で割れて散った。その一片に映り込む自分の顔を見つめながら、ヴィルジールは声を絞り出そうとした。

 だけど、なにひとつ声にならなかった。

 顔色を失ったヴィルジールは、何も奏でられなくなった喉元に手を当てた。

(──竜に喰われて、死ぬだと?)

 そのためだけに生まれ、そして死ぬ。それがイージスの聖女の宿命だと語ったノエルは、もうヴィルジールから目を外していた。見事な細工が光る天井窓を見上げ、険しい顔をしている。

「──聖女」

 ヴィルジールは顔を上げた。

「……ルーチェがどうした」

 ノエルが耳元のイヤリングに触れながら、部屋を飛び出す。急いで後を追うと、ノエルは肩で息をしながら、濡れ羽色の空を見上げていた。

「──聖女が、空に」

 ヴィルジールも空を仰ぎ、そして目を見開いた。
 銀色の月に重なるようにして、翼を羽ばたかせている少女の姿が見えるのだ。
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