亡国の聖女は氷帝に溺愛される

聖王の行方



 イージスの聖女は、来たる日のために生まれてくる。 

 そのためだけに、この世に生を受けたのだとしたら。その日が終わったら、聖女はどこへ行くのだろうか。 

 答えは明白だった。自分と同じ存在に会ったことがなければ、見たこともないからだ。

 聖女は“来たる日”を迎えたら、命を落とす。恐らくそれは、何十年、何百年と続き、誰ひとりとして変えられなかった聖女の宿命なのだろう。 

 だけど、ひとりだけ。聖女のために抗った者がいた。

(──あの日、私は。ファルシ様を止めることができなかった)

 銀色の翼が空を舞う。羽ばたくたびに、小さな光の粒子がきらきらと散っていた。

 翼は初めからルーチェと共に在ったかのように、ルーチェの背中で大きな翼を広げながら翔んでいる。

 ルーチェは小さくなったマーズの城を一瞥してから、北の方角を向いた。 

 ルーチェだけにしか見えない細い光が、北へと続いている。その光は初めはとても弱々しく、意識を凝らさなければ感じられないくらいに小さかったが、マーズの地に足を踏み入れてから突然強くなっていった。

 呼んでいるのだと、ただ漠然と、そう感じた。だからルーチェは、人々が寝静まった頃に聖獣を喚び出したのだ。

「──私をファルシ様の元に連れて行って」

 ルーチェの聖獣は、主人の願いに応えるように翼を広げ、ルーチェを空へと連れて行った。

 聖獣の名は、イクシオ。竜の業火からルーチェを守った時に身体の殆どを失ってしまったが、かつては銀色の翼と水晶のような瞳を持つ、天馬のような姿をしていた。
< 242 / 283 >

この作品をシェア

pagetop