亡国の聖女は氷帝に溺愛される
 ルーチェは空を翔けながら、胸元のペンダントにそっと触れた。

 ヴィルジールから贈られた青い宝石のペンダントが、月の光を受けて煌めいている。空よりも深く、海よりも淡いその色は、ヴィルジールの瞳と同じ色で。

 見つめているだけで、倖せな気持ちにさせてくれる。

 何も言わずに出てきたというのに、彼からもらったペンダントを着けてきてしまった。こんな真夜中にひっそりと抜け出したことが彼に知られたら、きっと怒られるに違いない。

 けれど、そんな日は来ないだろう。

 マーズの星空を共に眺めながら、手を繋いだあの瞬間がさいごなのだ。

 そうしたら、きっと、ルーチェはもう──。

「(──フィオナ)」

 ファルシの声が頭の中に響く。ルーチェの知るファルシは、何が起きようとも声音ひとつ変えずにいられるような、冷静な人だったというのに。

 焦りを感じる声に、ルーチェは羽ばたきの速度を上げさせた。

「(──フィオナ。こちらに来てはだめだ)」

 道の先から光が伸びてくる。濃く輝く純白の光が、ルーチェを招くように色を広げているというのに、ファルシは来てはいけないと言っている。

(──待っていてください、ファルシ様)

 ルーチェは意識を凝らし、光が指し示す方角へ進み続けた。
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