亡国の聖女は氷帝に溺愛される
 オヴリヴィオ帝国の城下を、黄金の竜が襲撃したあの日。

 ヴィルジールがルーチェの光に命を救われた、あの時。竜はヴィルジールを前に、こう言っていた。

 ──奴には劣るが、中々の力だ。
 ──俺を誰と比較している。
 ──我が喰らってやった、愚かな男のことよ。

 竜が喰らったという男のことは、やはり聖王ファルシで。
 ヴィルジールはファルシに劣ると馬鹿にされたのだ。

「竜の中にいる聖王を、どうやって引き摺り出すんだ?」

「それは分からない。けど、ひとつだけ思い当たることがある」

 ヒュルル、とフェニックスが急に鳴き声を上げ、先に進むのを止めた。ヴィルジールは慌てて手綱を引いて、ノエルを振り返る。

「急に止まるな、魔法使い」

「僕に言わないでよ。フェニックスが急に鳴いて──」

 ヨシヨシ、とノエルがフェニックスの体を撫でる。

 ヴィルジールは呆れたように溜め息を吐いてから、夜更けの空を振り仰いだ。

 マーズの城を出てから、どれくらい馬を走らせただろうか。

 雲が出てきたせいか、ルーチェと共に見た星々は疎に散って見え、月は姿を隠してしまっている。

「ねぇ、氷帝」

「なんだ」

「あれ、見て」

 ノエルが遠くを指差す。その人差し指は微かに震え、北の方角を向いていた。その指が指し示す方を見つめていると、続々と火の手が上がっているのが見える。

 ヴィルジールは静かに表情を消した。
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