青と春の間に
第3話
八月の夜、窓を開けると生ぬるい風がカーテンを揺らした。
蒼海はテーブルの上のグラスに氷を落とし、音を聞きながら瑛菜の帰宅を待つ。
仕事で遅くなると聞いていたけれど、時計はもう二十二時を回っている。
――大丈夫かな。そんな心配は、以前の自分にはなかった感情だ。
玄関の鍵が回る音。
「ただいまー…ごめん、遅くなった」
少し疲れた瑛菜の声に、思わず「おかえり」と返す。
その瞬間、彼女の頬がふっと柔らかくなる。まるで、それだけで報われたみたいに。
食事を温め直しながら、蒼海は少し迷った末に口を開く。
「……瑛菜、うちに来てから、無理してない?」
「え、どうして?」
「だって、仕事も大変そうだし……私のせいで疲れてたら、嫌だなって」
瑛菜はスプーンを置き、真っ直ぐに蒼海を見た。
「逆だよ。蒼海と一緒にいるから、頑張れるの」
小さな声だったのに、その熱は胸の奥に深く染み込んでいった。
食後、二人でベランダに出る。街灯と遠くの花火の音。
瑛菜が隣で、ぽつりと言葉を落とす。
「いつか、別々になる日が来ても……私、今日のこの夜のことは絶対忘れないと思う」
突然の言葉に返事ができず、ただ隣の手を握る。
言葉を重ねなくても、流れていく時間が答えをくれる気がした。
夜風が、夏の匂いと少しの切なさを連れてくる。
蒼海は心の中で、ひとつだけ願う。
――この日常が、もう少しだけ続きますように。
蒼海はテーブルの上のグラスに氷を落とし、音を聞きながら瑛菜の帰宅を待つ。
仕事で遅くなると聞いていたけれど、時計はもう二十二時を回っている。
――大丈夫かな。そんな心配は、以前の自分にはなかった感情だ。
玄関の鍵が回る音。
「ただいまー…ごめん、遅くなった」
少し疲れた瑛菜の声に、思わず「おかえり」と返す。
その瞬間、彼女の頬がふっと柔らかくなる。まるで、それだけで報われたみたいに。
食事を温め直しながら、蒼海は少し迷った末に口を開く。
「……瑛菜、うちに来てから、無理してない?」
「え、どうして?」
「だって、仕事も大変そうだし……私のせいで疲れてたら、嫌だなって」
瑛菜はスプーンを置き、真っ直ぐに蒼海を見た。
「逆だよ。蒼海と一緒にいるから、頑張れるの」
小さな声だったのに、その熱は胸の奥に深く染み込んでいった。
食後、二人でベランダに出る。街灯と遠くの花火の音。
瑛菜が隣で、ぽつりと言葉を落とす。
「いつか、別々になる日が来ても……私、今日のこの夜のことは絶対忘れないと思う」
突然の言葉に返事ができず、ただ隣の手を握る。
言葉を重ねなくても、流れていく時間が答えをくれる気がした。
夜風が、夏の匂いと少しの切なさを連れてくる。
蒼海は心の中で、ひとつだけ願う。
――この日常が、もう少しだけ続きますように。


