兄弟の溺愛に堕ちて

第1章 残業

人は恋すると3年持つと言われているが、私の恋は3年経っても収まる気配を知らない。

社長、久我一真さんの秘書になって3年。

すぐに恋をしたというのに、未だにその想いは告げられていない。

最初はただ、尊敬できる上司だった。

判断は的確で、誰よりも社員を思いやる優しさを持つ人。

背筋の伸びた立ち姿や、ふとした瞬間の柔らかな表情に、何度心を奪われたか知れない。

一真さんの傍で仕事をすることは、私にとって誇りであり、同時に密かな幸せだった。

けれどそれは、胸の奥にしまい込むしかない想いでもある。

社長と秘書——立場も距離も、軽々しく踏み越えてはいけない境界線があるから。

「社長、この書類、整理しておきました。」

「ありがとう。」

真っ直ぐに向けられる笑顔が、胸を温かくして、同時に切なく締めつける。

好きです——そう言えたら、どんなに楽だろう。
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