兄弟の溺愛に堕ちて
黒い艶のある髪が、35歳という年齢を感じさせないほど若々しく見せている。

端正な横顔に差し込む午後の光が、ほんのりと輪郭を縁取っていた。

私ももう28歳だ。

この恋が報われないのなら、そろそろ他の恋を探した方がいいのかもしれない。

そう頭ではわかっている。けれど——。

「ん?」

デスク越しに視線が合った瞬間、この人の静かで落ち着いた笑顔が、胸の奥まで沁み込んでくる。

何度見ても見飽きることがない。むしろ、見惚れてしまう自分がいる。

いつかこの笑顔を独占したい。

社長の周りにはたくさんの人がいて、その笑顔は誰にでも向けられているはずなのに、自分だけのものにしたいと願ってしまう。

ずっとそう思ってきたのに——。

「美咲さん、今日はもう上がっていいよ。」

その穏やかな声に名前まで添えられると、胸の奥が熱くなる。
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