兄弟の溺愛に堕ちて
「美咲。」名を呼ばれた瞬間、胸が跳ねた。指先がそっと髪に触れる。

「何かあったら、俺に言ってね。」

「……はい。」

見つめ合う。

距離が近い。息が触れそうで、心臓の音がやけに大きく響く。

――こんなの、初めてかもしれない。

翌日、デスクワークを終えて帰ろうとした矢先、蓮さんの声が飛んできた。

「美咲~!今から冊子100部作製!」

「今からですか⁉」時計はすでに17時を回っている。

「明日使うんだよ。頼む!」

必死な顔に、思わずため息が漏れる。

「残業代、高くつきますよ。」

「ありがとう!」返事の方向性が違う気がする。

そう言うと、蓮さんはすでにコピー機の前に立ち、手際よく紙をセットしていた。

「印刷の方が早くないですか?」と声を掛けると、「スピードが違う。」短く言い切り、迷いなく作業を進める。

ふざけているようで、こういう時は驚くほど真剣だ。
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